占い師の怪談(6)「感覚」



感覚
毎日繰り返される日々…
人々は暮らし、歩き、考え、生きている。
そして人が生まれ、そして死んでいく…。
今もどこかで……。

占い師…それはある意味、依頼人の感性に”精神的に潜る”作業だ。
自分の精神の中の感性を同調させた人格を作り、
さらにその他複数の人格を意図的に作り、
さらにまた主導権を持った人格が纏めて占いをしている。
占い師は、その微妙な蜘蛛の糸の上で精神的に作業するのだ。


オイラは何もない空間にリアルに物体を”想像”することができる。
例えば目の前にリンゴを作るとする。
匂い・手触り・重さ・大きさ・味を”感じて”創り出すのだ。
それは物理的なものではない。
精神上で練り上げた"精神的な物体”である。
もちろん食っても腹は満たされない。
それはおそらく精神の切り替えによってする作業だ。
日常から脱却するほどの…。





今まで、あまり語ったことがなかった話をしよう。

想像力が豊かになったせいか、感応するようになったせいか、
オイラは嫌なものを前より感じるようになってしまった。
基本的にオイラは「霊感」は90%が詐欺だと思っているが、
自分でも解けないに突き当たるときがある。

気が付いたのは占い師になってしばらくしてからだった。
それは仕事柄なのか、感性的なものなのか分からない。
白昼夢なのかもしれないし、修行のせいかもしれない。

人の死に際の感覚を感じてしまう時があるんだ。

それは日常的な状態、リラックスした時にまれに起こる。
例えば寝転んでTVを見ている時や旅行で景色を見ている時とかね。
もちろんオイラはソレを切り離す精神的な作業をしているが…。

この前感じたものを今日は書いてみようと思う。

オイラは部屋でテレビを見ていた。
その時、突然それは起こったんだ。

急に感覚が遠のいていく。
は横断歩道で道路を渡っていた。
陽射しがアスファルトを焦がし、入道雲が風に流れていた。

キキーッ!

急に耳元で何かの大きな音がした。
は飛ばされ頭から地面に落ち、頭蓋骨が陥没する音を聞いた。

ごきゃっ・・・みちみちっ・・・ぶちゅっ・・・

痛みはない。
は考えた。

(何が起きたんだろう・・・?)

周囲がスローモーションで動いている。
そして、の脇腹からトラックのダブルタイヤが斜めに乗り越えていく。

ぎゅちゃっ・・・めりめりみきっ・・・

どうやらは轢かれたらしい。
眼からゆっくり景色が消えていった・・・。



ふっとオイラは我に返った。
何気ない日常風景・・・。
オイラはいつもの部屋で、いつものように寝転んでTVを見ていた。
丁度その時、ニュースキャスターが交通事故の報道をしていた。
現場カメラの映像が映し出されている。
被害者は働き盛りの中年サラリーマンで、トラックに轢かれ即死とのことだった。

頭蓋骨陥没の上、胸を轢かれ即死

オイラは嫌なものを感じ、TVのスイッチを切った。
自分の想像だと信じたかった。

もうひとつの事が起こる前までは・・・。



それはビルの屋上でのことだった。
オイラは友人と話していた。
ひとしきり話した後、一息ついた瞬間それは起こった。

急に感覚が薄れていく・・・。
しかし、今回は前とは違った。
意識を「意図的に分裂」することができたからだ。
感覚でいえば「本人7:薄れ3」ぐらいだろうか。

突然また、薄れた方に感覚が忍び込んでくる。

薄れた感覚に飛び込んできたのは、飛び降り自殺の感覚だった・・・。

それはフェンスの金網をよじ登っていた。
下には靴が揃えて置いてあり、は手紙を乗せて置いた。

(あいつが読んでくれるだろう。後の処理も大丈夫だろう)

は上を乗り越えフェンスの外側に下り立つ。
さっきまで3時間も眺めていた外側には立っている。
下から「何か」が囁いている。

《 来い。》と・・・。

振り返る。
さっきまでがいたフェンスの向こう側が何kmも遠くに思える。
周囲の音が、だんだん消えていく・・・。
下からまた呼ぶ声がする。

《 来い。》と・・・。

フェンスを掴んでいた指先がだんだん開いていく。
それはとても甘美な瞬間だったのかもしれない。
甘い誘惑を含み、誘われる破滅への招待・・・。
ゆっくり前に倒れこむように足が縁から離れ、
体は風を受けながら加速していく。
下からは、幾千、幾万もの手達が手招きしている。
そして途中に出っ張っていたテラスの縁に肩がぶつかる。

めぎちっ・・・

衝撃で体は側方に糸の切れたマリオネットのように回転した。
また加速する。

そして呼んでいた地面に足から降り立つ。
衝撃で大腿骨が骨盤から外れ、はらわたのなかを突き破り肩に抜ける。

ぎちゅぎちゅっべきごきゅっ・・・どさっ・・・

周囲にはの脳漿が散らばっていく。

びちっ・・・びちゅびちょっ・・・

落ちた目の前の主婦は、めだまが飛び出しそうな顔でを見ている。
彼女の全身には、の血と肉が飛び散っている。
安心しろ。そんなに眼を開かないでもいいさ。
は死ぬ以外、あんたに何にもしない。
がそう思った時、ゆっくりと目玉が白濁していった・・・



感覚は通り過ぎた。
もちろんオイラは飛び降りてはいない・・・。
その間、友人の隣で固まっていただけだ。
「何でもない」と心配する友人を説き伏せ、
オイラは場所を変えようと彼に言い、屋上を後にした。

オイラは、さっき「」が入ってきたとき感じた。
」が毎日その屋上から「飛び降りている事」を・・・。



オイラは思う。
「彼らは、浮遊する記憶やその場所にこびりついた記憶ではないか?」と。
イオンの集まりのような、何らかのエネルギーを媒体とした・・・。
例えば、人間の思考がなされるときに、
神経に脳が送る電気的信号が、強いエネルギーを発するとして、
そこの空間の気体もしくは物体に、何らかの形でさせる記憶・・・。
こびりついたその記憶は、なんらかの事でエネルギーが中和されるまで、
何回も何回も無限にそのプロセスを繰り返す・・・。
まるで無限に続くメビウスの輪のように・・・。

それ以来、オイラはお守りを手放したことがない。



(最終更新2002/10/31/Thu/12:02:14)






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