占い師の怪談(7)「呪詛」



呪詛
これはここに書いても信じてもらえるだろうか・・・。

オイラ自身、オカルトに対して弱否定的な考えを持っている。
それは全否定ではなく、己が目で見、そして何らかの事実が介在しないと信じないということだ。よく鑑定でもそういう話が出るが、現実的な立場をとることが多い。ほとんどの場合、心因的な事象が介在し、そう勘違いしている場合も少なくない。

若い頃、占いにかぶれると時を同じくしてオカルト的な知識を蓄積する機会があり、その矛盾点を何度となく見てきたことからもそう考えている。オイラのところに持ち込まれてくる悩みにもちゃんとした流れがあり、現実的な力が介在している。それは過去に起きたのもが原因であったり、人の考えが影響している。

しかし・・・極稀に何らかの存在を感じることがある。
今回はその話をしてみよう。

それは暑い夏の夜に持ち込まれた相談だった。話を聞いてみると家族を襲う不幸についての相談で、持ち込まれた時点ではオイラさえも気が付くような予兆はなかった。そしていつものようにカードを手に取り、シャッフルして展開した瞬間にそれは起こった。

普通の占いであれば殆ど出ない組み合わせのカード・・・

「呪詛」

そのカードが出た瞬間、窓の外を黒い影がよぎる・・・

肌が半身だけ粟立つ・・・
闇夜の中でもはっきりと分かるような暗黒の気配・・・
絶えず形を変えながら窓の外にうごめく魔性・・・

依頼人に聞いた。

F:『誰かに怨まれてないか?』

聴いた瞬間、窓の外の闇が蠢いたような気がした。黒い霧のような「それ」は窓の外から中に入ろうとしているかのようだった。窓が細かく振動し、唸り声のように聞こえている・・・。

依:『実はわたしの付き合っていた彼氏、二人自殺してるんです・・・』

窓の振動は続く・・・。

F:『えっ?!

依:『はじめの彼氏なんですけど、わたしの浮気が原因で、
   気持ち的に追い込まれてしまって飛び降り自殺したんです・・・。
   二人目は、そんな理由無いのに行方不明になって、
   三日後に鉄道に飛び込んでしまって・・・。
   それ以来、彼氏が出来ると相手が大きな怪我したり病気したりするんです。
   もしかしたら私・・・。』

依頼人がそれを言い終わったとたん、窓が物凄い強風に撓(たわ)んだようになった。

轟っ!!

何回かこういう経験にオイラは遭った事が過去にもある。しかし、今回の「ソレ」は物理的な力を持った獣のような感覚があった。このままの状態で鑑定を続けた場合、「ソレ」に攻撃される可能性を感じたのかもしれない。

オイラの鑑定時の精神状態は結構特殊で、精神的物体に鑑定の邪魔をされる場合、妖怪だろうが怨霊だろうが何回でも殺してやろうと思っている。今回の場合とても腹が立っていた。

とりあえず依頼人に電話を切らず五分程度待ってくれるように頼み、窓に向かい唾液で図形を書く。妖怪の類であった場合、人の唾液を嫌いおとなしくなることも多い。だが、今回の「ソレ」は、その類でなかったようで、窓の外で煩く唸っている。

腹が煮えくり返ったオイラは窓をバン!と開け、「ソレ」を手を伸ばして掴んだ!

ずちょっ。
ぬるっ。
ずりぃっ。
びちゃっ。

それは黒い霧のようなもの・・・。
何かの瘴気の塊・・・。
どぶ泥の匂い・・・。
ぬめぬめした嫌な感触・・・。
触手のような髪の毛のような・・・。
掴んだこちらを二つの光る目が睨んでいた。

しかし、オイラはそれでもムカついていた。全力で握りつぶしてしまいたかった。火でも点けて燃やしてしまおうと思った。その反抗的な目が更に怒りを呼ぶ。「ソレ」の何本にも枝分かれした「舌」がオイラの腕に這い回る・・・。

オイラは間髪入れず、「ソレ」の目に向けて反対の手でVサインをゆっくり捻じ込んでやった。腐った肉に指を刺し込んでいく感覚。「ソレ」は気味の悪い嫌な悲鳴を上げた。

ぎゃ〜〜〜!

猿が首を捻じ切られる時に出すような、音ではなく感覚に響くような悲鳴・・・。
甲高く、それでいて絶望を孕んだ滅びの感覚・・・。
「それ」はガチガチと歯を鳴らす・・・。
次第に「ソレ」は力なく動かなくなっていった・・・。

オイラは、「ソレ」の眼窩に指を突っ込んだまま振りかぶり、窓から斜め下の月極駐車場のアスファルトに投げ捨てた。

げちょっ。
びちゃっ。

アスファルトに落ちた「ソレ」は衝撃で潰れ、飛び散り、瘴気がゆっくり霧散していった・・・。

そしてオイラは依頼人に電話越しに声を掛け、鑑定に戻る。いつもの鑑定のように・・・。それ以降は「ソレ」による邪魔は入らなかった。

今だに「アレ」は何であったか分からない。得体の知れない何か・・・。カードに出た「呪詛」そのものであったのかもしれない。その家系に寄生する、怨念を孕んだ呪詛なのか、それとも死んだ男達の成れの果てなのか・・・。

あの感覚は想像力の産物であるのかもしれない。
しかし、あの時の感覚は忘れられない。

あの手に残った感触だけが・・・。


(最終更新2002/10/31/Thu/12:07:26)






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