第一話 |
![]() それは峠での出会いだった・・・。 (最終更新2004/11/16/Tue/20:41:23)
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第二話 |
![]() 街で遊び呆けた俺は、急に山に行きたくなった。 車を西へ向け、夜の温泉街をすり抜けワインディングロードへ。 いくつものコーナーを抜け、ストレートを突き抜け、 夜の闇を切り裂き、車は地を駆ける。 悶え苦しむようなエンジンの咆哮が山に響く。 ターボの回転する音は、まるで切り裂く風鳴りのようだ。 頭の中は機械のメーターと同化し、 アスファルトで固められた道を疾る。 まるで一匹の獣のように・・・。 それは突然だった・・・。 何時の間にか後ろに車が。 暗い為車種は分からない。 ただ、その車の低く太い排気音と、 丸目のライトだけが判別できた。 アクセルを蹴り加速する。 二速…三速…四速と、タービンの加給音を響かせ加速していく。 シートに押し付けられた体は重力を後方に感じる・・・。 追いつく車はいないはずだった…。 丸いライトが近づいてくるまでは。 持てる技術を全て駆使し、車を制御する。 コーナーではフルタイム4WDの全ての車輪が悲鳴をあげていた。 真横に走りながらコーナーを抜ける…。 いる・・。 すぐ後ろに・・・。 床までアクセルを踏み込む。 タコメーターはイエローゾーンに迫り、 ブローオフバルブの音とタービンの加給音が響く。 二台はまるで踊るかのように峠を駆ける・・・。 コーナーを軋みながら曲がり、ストレートでは限界まで・・・。 しかし、徐々に後ろの車は離れていき、最後には見えなくなってしまう。 何故か寂しさを覚えながら、アクセルを踏み込んだ・・・。 しばらく走ると、山の上にある駐車場が見えてきた。 何台か同じように走りに来た車達が停まっているのが見える。 駐車場に入り、車を停める。後ろから追ってきた車も俺の隣に滑り込んだ。 外に降り立ち明かりの方へ歩いていく。 自動販売機で缶コーヒーを買い、俺は車に戻る。 その時だった・・・。 (最終更新2004/11/21/Sun/23:18:48)
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第三話 |
![]() 「速いんですね。」 俺は驚き振り返った。 其処には隣の車を運転していた女がいた。 「もう長いこと走ってるからね。」 「さっき途中から出て追ったんですけどダメでした」 彼女は恥ずかしそうに俺に言った。 髪はストレートに肩位まで垂らし、 ジーンズに黒いTシャツを着ていた。 「そうか、こっちもギリギリだったよ」 「いじってるんですか?」 「秘密さ」 そう言いながらボンネットを押さえ、 純正仕様そのままの柔らかいサスペンションをわざと揺さぶる。 彼女はその揺れ方で純正そのままだと気が付いて笑った。 不健康な生活の俺には、彼女の笑顔は眩しかった。 「素ノーマルに負けたなんて友達には言えないわ」 「良く分かったね」 俺も笑う。 それが全ての始まりだった…。 それからたまたま峠で会った時には話すようになり、 いつしか電話番号を交換し、二人で走りに行くようになった。 (最終更新2004/11/12/Fri/02:34:14)
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第四話 |
![]() 「明日海にでも行かないか?」 電話をしたのは俺だった。 彼女は突然の誘いに驚いたようだったが、戸惑いながらもOK。 正直、昼間にはまだ会った事が無く、今までは知り合いや友人としてであり、 お世辞にもデートと呼べるレベルではなかった。 その答えを聞いた俺は喜び、早速行きたい場所を聞き、二人で相談した。 そして当日、二人を乗せた車は海に向けて走る。 海岸線をドライブし、観光名所で二人並んで写真を撮り、 芝生にシートを敷いて彼女の作った握り飯だけの弁当を食べた。 空は快晴で風が気持ちよかった。 午後に行った岬の先端、そこには船乗り達の安全を願う神社があった。 岸壁の中腹に柱を組み海に突き出る形で造られたその社は、板の隙間から下を覗くと、 そこには波が打ち寄せ、吸い込まれてしまうような青い海が水平線まで続いている。 御神籤を買って、それから俺は生まれて初めて自分の事を願った・・・。 そして二人でその先の展望台へ。御神籤を開く。 ・・・恋愛 こころつたへてつらぬくべきなり・・・・・・ 俺の気持は決まった。 波音は繰り返し岸壁にぶつかり、鴎が飛び、遠くには島が霞んでいる。 展望台の策に凭れ、彼女を見詰める。 心臓の鼓動が波音をかき消していた・・・。 「なに?」 「あのさ・・・」 「うん」 俺はその先の言葉に詰まる。 もし断られたら・・・・・・。 はっきりと聞くのが怖かった。 「どうしたの?」 緊張で言葉が出ない。 そんな俺に、彼女は笑いかけた。 その瞬間、俺を縛っていた呪縛が解けたような気がした・・・。 意を決して彼女に問いかけた。 「俺と付き合ってくれないか?」 「えっ・・・・・・?」 「やっぱり駄目か・・・?」 「・・・・・・」 彼女は驚き、そして目を伏せた。 そして海の方向を向く。 俺も彼女の返事を待ちながら、海を見た。 遠くに遊覧船が見える。 空には、ぽつん、ぽつんと雲が浮かび、風に流れている。 鴎が啼いた・・・・・・。 独り言のように彼女が話しはじめた。 「貴男は私が断ると思う?」 そう訊かれた俺は、答えに困った・・・。 その顔を見た彼女は急に吹き出して笑う。 「あははは!困った顔してる」 「まあね。で、どうだい?」 「・・・・・・うん。貴男はいい人だけど・・・・・・」 きた。 このパターンはお決まりの断り文句だ。 僅かの時間が無限のように思え、頭の中が回る。 俺は失恋の為にこの海に来たのかも知れない・・・。 しかし、言わなければならなかった。 明日の為にも結果が欲しかった。 彼女は言い淀んだ後、続ける。 「・・・でもね、付き合ってあげるわ。」 「え?」 暫く状況が把握できない。 「だから、付き合おうよ。」 「本当か?」 「うん、反応が面白かったからいいよ。」 「遊びすぎだって。冷汗かいちゃったよ。」 「だって、どんな反応するか見てみたかったし。あはは」 俺は彼女のその言葉を聞き、苦笑いする。 きっとさっきの”いい人だけど”の部分では、 あからさまにショックな顔をしていたに違いなかった。 「でもね、私も貴男の彼女になりたくて、今日告白するつもりだったの。」 「しまった!先に言うまで待てば良かったよ。」 「でも貴男が言ってくれて良かったわ。」 「なんて言うか、こういうのは男がね。」 「嬉しかった。」 「俺もだよ。」 俺と彼女は、そんな感じで付き合い始めた・・・・・・。 (最終更新2004/11/18/Thu/02:30:23)
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第五話 |
![]() 日々は流れる。 それは何の変哲もない休日、彼女の部屋で迎えた朝・・・。 腕枕から彼女の起き出す気配がした。 俺は眠っているフリをし、彼女はそっとベッドから抜け出し、 湯を沸かしてコーヒーを淹れ、そしてトーストを焼いた。 それから俺が寝ているベッドに忍び寄り、掛け布団を剥ぎ取る。 俺は大げさに寒がって見せる。 彼女は笑う。 俺も笑う…。 そんな日常が繰り返す。 まるで夢のように・・・。 昼になって、俺と彼女は映画館へ出掛けた。 ポップコーン、コーラ、パンフレットは必需品。 映画を観ながら彼女の手を握ると、とても暖かかった。 クライマックスの場面で手が強く握られるのを感じて、彼女を見る。 彼女は映画を観て泣いていた・・・。 デパートで服を買い本を立ち読みして、上の階のレストランで食事をする。 彼女は色々な話をし、俺はその話が面白くて食事そっちのけで聞く。 たまに突っ込み彼女は膨れ、拗ねたフリをし、そして俺が宥める。 結局最後には二人とも笑い合っていた。 ただのありふれた日常、そんな日々が流れ、 俺はそれが永遠に続くといいと考えていた・・・。 (最終更新2004/11/16/Tue/05:10:20)
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第六話 |
![]() それは真夜中・・・・・・突然の電話だった。 出た俺は耳を疑い、何回も聞き直す。 しかし、何回聞いても相手が告げる言葉は変わる事がなかった・・・。 電話を切り、急いで車に乗り込む。 そして夜中の街を抜け、海沿いの道を走る。 色々な想い、そして今までの事が頭の中を回る。 嘘だと思い込みたかった・・・。 朝方になり電話で告げられた病院へ。 夜の病院の地下の、暗くじめじめした部屋・・・。 彼女の両親達が泣いている。 彼女はベッドに横たわっていた。 真っ白な顔・・・。 冷たいカラダ・・・。 取り乱した彼女の両親は、何を聞いても答えてはくれなかった。 俺は彼女に問いかける。 この出来の悪い冗談の事を・・・。 きっと、あのイタズラっぽい笑顔で起きあがるに違いない。 何故だかそう考える・・・。 受け入れてはいけない気がした。 しかし、いつまで待ってみても、彼女は動かなかった・・・。 落ち着いた後、警察官から説明を受けた。 事故だった・・・。 彼女は出掛ける時に両親に言っていたらしい。 「空を見に行く」 今でも思い出す。 あの初めてのデートの日、二人で見た空を。 そして・・・告白した海を。 - end - (最終更新2004/11/18/Thu/02:29:46)
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